ゲノム編集食品、スーパーでどう見分ける?具体的な食品例と表示の読み解き方
はじめに:私たちの食卓とゲノム編集食品
近頃、メディアなどで「ゲノム編集食品」という言葉を耳にする機会が増え、ご家族の健康を預かる立場として、「結局、安全なの?」「食べても大丈夫なの?」「スーパーでどれを選べばいいの?」といった漠然とした不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
「ゲノム編集食品と私たちの食卓」では、消費者の皆様が安心して食品を選べるよう、ゲノム編集食品に関する正しい情報をお届けしています。この記事では、ゲノム編集技術を使って開発された具体的な食品例をご紹介し、スーパーなどで食品を選ぶ際に役立つ「表示」のルールと、その読み解き方について分かりやすく解説してまいります。
ゲノム編集食品、実はもう身近に?具体的な食品例をご紹介
ゲノム編集とは、生物の持つ遺伝情報をピンポイントで書き換え、品種改良を効率的に行う技術のことです。この技術を活用することで、これまで時間をかけて行われてきた品種改良が、より短期間で可能になります。
では、実際にどのようなゲノム編集食品が開発され、私たちの食卓に登場しているのでしょうか。主な例をいくつかご紹介します。
- 高GABAトマト(ギャバ豊富なトマト) ストレス緩和や血圧降下作用があるといわれるGABA(γ-アミノ酪酸)を、従来のトマトよりも多く含むように改良されたトマトです。特定の遺伝子の働きを調整することで、GABAの蓄積量を増やしています。
- 肉厚マダイ 通常の真鯛よりも身の量が多く、成長が早いように改良されたマダイです。食用の部分を増やすことで、より効率的な養殖が可能になります。
- 可食部増量トラフグ 成長に関わる遺伝子をゲノム編集することで、可食部(食べられる部分)が多くなったトラフグです。水産資源の有効活用にも繋がります。
これらの食品は、私たちの健康維持に役立ったり、食料生産の効率を高めたりと、様々な可能性を秘めていることがお分かりいただけるかと思います。
スーパーで見分けるには?ゲノム編集食品の表示ルール
ゲノム編集食品が市場に出回るようになり、「消費者はどうやって見分ければ良いの?」という疑問をお持ちの方も多いでしょう。ここでは、ゲノム編集食品の表示に関する現在の日本のルールについてご説明します。
1. 安全性評価と届出制度
日本では、ゲノム編集食品が市場に出回る前に、その安全性を国が確認する仕組みがあります。
- 安全性評価: ゲノム編集技術の中には、最終的に遺伝子を改変した痕跡が残らないものがあります。このような食品については、遺伝子組み換え食品のように個別の安全性審査は義務付けられていません。これは、遺伝子の変化が自然界で起こる突然変異や、従来の品種改良で生じる変化と区別できないためです。
- 届出制度: しかし、消費者がゲノム編集食品であることを知る機会を確保するため、事業者は国(厚生労働省)に対し、ゲノム編集技術で開発した食品に関する情報(どのような品種改良を行ったかなど)を届け出ることになっています。この届出情報は、厚生労働省のウェブサイトで公開されており、誰でも確認することができます。
2. 表示のルール
現在の日本では、ゲノム編集食品に対する義務表示のルールはありません。これは、前述の通り、ゲノム編集によって生じる変化が、従来の品種改良による変化と区別できない場合があるためです。
しかし、以下のような形で情報が提供される場合があります。
- 任意表示: 事業者が自主的に「ゲノム編集技術を利用しました」といった表示を行う場合があります。これは消費者の選択肢を広げるための取り組みです。
- 情報公開: 生産者や販売者が、自社のウェブサイトや店頭のPOPなどで、使用している技術や製品に関する詳細な情報を公開していることがあります。
「結局、どこを見ればいいの?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、具体的な食品例が流通し始めた段階であり、今後、消費者の皆様の声を受けて表示のあり方も議論されていく可能性があります。現時点では、食品のパッケージ表示に加え、生産者のウェブサイトや国の公開情報などを確認することが、判断の一助となるでしょう。
ゲノム編集に関するよくある疑問や誤解
ゲノム編集食品について考える際、いくつかの誤解が生じやすい点があります。
「遺伝子組み換え食品と同じなの?」
いいえ、ゲノム編集食品と遺伝子組み換え食品は、異なる技術によって作られています。
- 遺伝子組み換え食品: 外部から別の生物の遺伝子を導入したり、もともと持っている遺伝子を完全に除去したりする技術です。例えば、病気に強い細菌の遺伝子を植物に組み込む、といった方法がこれにあたります。
- ゲノム編集食品: ゲノム編集は、生物がもともと持っている遺伝子の一部を、ピンポイントで「修正」する技術です。外部から遺伝子を導入するわけではなく、言わば生物が持つ「辞書」の中の特定の単語を書き換えるようなイメージです。このため、最終的に遺伝子を改変した痕跡が残らない場合もあります。
この違いから、日本ではゲノム編集食品と遺伝子組み換え食品で、安全性評価や表示のルールが異なっています。
「不自然な食品なのでは?」
ゲノム編集技術は新しいものですが、その根本にある「品種改良」は、人類が古くから行ってきたことです。例えば、甘くて食べやすいトウモロコシや、病気に強いイネなど、私たちが普段食べている多くの農作物は、長い時間をかけて様々な品種改良が重ねられてきました。
ゲノム編集は、この品種改良をより効率的かつ精密に行うための「ツール」の一つと捉えることができます。従来の品種改良も、結果的に遺伝子に変化をもたらすという点では共通しています。
「長期的な影響が心配」
ゲノム編集食品の安全性については、国内外の専門家や研究機関が科学的な根拠に基づいて慎重に評価しています。現在の科学的知見では、適切に安全性が確認されたゲノム編集食品は、従来の食品と同等に安全であると考えられています。
もちろん、新しい技術であるため、長期的な視点での検証や研究は今後も継続されていくことでしょう。国も、届出制度などを通じて情報の公開と監視を続けています。
まとめ:正しく知り、賢く選ぶために
ゲノム編集食品は、私たちの食料生産や健康に貢献する可能性を秘めた新しい技術の産物です。ご家族の健康を最優先に考える皆様にとって、この新しい食品について漠然とした不安を感じるのは自然なことです。
この記事を通じて、ゲノム編集食品がどのようなもので、どのような種類があり、どのように表示されているのかについて、少しでもご理解いただけたなら幸いです。
現時点では、ゲノム編集食品に義務的な表示はありませんが、厚生労働省のウェブサイトで届け出された情報を確認したり、自主的に情報を公開している生産者の情報を参考にしたりすることで、ご自身の判断材料とすることができます。
大切なのは、メディアやSNSなどで流れる情報に一喜一憂するのではなく、科学的な根拠に基づいた情報を冷静に、そして正しく理解することです。これからも、「ゲノム編集食品と私たちの食卓」では、皆様が食卓の選択をする上で役立つ、信頼できる情報を提供してまいります。